GRB 030329

- 2003年3月29日に近傍で起きたガンマ線バースト -



宇宙最大級の爆発現象 「ガンマ線バースト」。2003年3月29日に起きたガンマ線バーストは我々の銀河の近傍 で発生し、歴史的な明るさに達しました。我々 京都大学チームの観測によって、 急速に減光していく残光の詳細が初めて明らかになりました。




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2003年3月29日に発生したガンマ線バースト(GRB030329)のCCD画像。中央右下の星が時間と共に急速に減光していく様子が分かる。(もっと詳しく)

現代天文学に残された大きな謎「ガンマ線バースト」

ガンマ線バーストとは宇宙最大規模の爆発現象で、 その正体は発見から30年たった現在でも謎のままです。X線よりも波長の 短い「ガンマ線」と呼ばれる電磁波領域において、 0.1秒から数百秒の間明るく輝く謎の現象が最初に報告されたのは1973年のことで、 それは核実検監視衛星による偶然の発見でした。この現象はガンマ線バースト (Gamma-Ray Burst; GRB)と呼ばれ、その後の研究で 1日に1回程度の頻度で検出される、宇宙の中で決して 珍しくない、ありふれた現象であることがわかっています。発見から 約20年の間はこの現象が太陽系内で起こっているのか、銀河系の中の現象なのか、 その発生源すらも特定できない情況でした。

しかし、1997年以降、ガンマ線以外の波長域(X線、可視光、電波等)でも ガンマ線バーストに付随した増光現象(「残光 と呼ばれる)が報告され、特に 可視光の観測から、 ガンマ線バーストは実は我々の銀河系の外、 場合によっては「宇宙の深層部」で起こっていたことが明らかになった のです。そのような遠方での現象であるにも関らず地球から明るく見えることは、 爆発のエネルギーが非常に大きいことを意味します。 ガンマ線バーストの爆発 エネルギーは超新星をも 越えると言われており、一体何が起こってそのような 巨大なエネルギーが解放されたのか? ガンマ線バース トとその残光現象の 正体は何か? 等の基本的な謎は未だに解明されていません。

謎の解明を妨げるもの、 それは現象の短さと突発性

発見から30年が経過して、その間多くの研究者が熱心に議論してきたにも かかわらず、まだその正体が解明されていないという情況は、現代天文学では 珍しいことです。 なにが研究のスムーズな進展を妨げてきたのでしょうか? 最も大きな原因は、このガンマ線バーストが予測できない 突発現象で、しかも爆発の持続期間が極めて 短いことです。上にも述べたように、ガンマ線バーストそのものの 持続時間はまさに「一瞬」(0.1-100秒)で、その一瞬を観測衛星が捕らえ、 情報を地上に送り、地上の観測者による残光観測の開始に至ります。 さらに、残光現象もバースト同様、持続時間が短く(通常1-2日しか観測できない)、 一カ所の観測所による観測では現象の全体像を把握することは 不可能です。 従って、ガンマ線バ−ストの研究に は 観測衛星による迅速な情報伝達と、複数の観測所による多経度での観測、 すなわち大規模な国際共同観測が必要不可欠なのです。 地上観測者の情報交換と即時観測のためのネットワ−クシステム (GCN: http://gcn.gsfc.nasa.gov/、 または VSNET) が確立していく一方で、これまでの観測衛星の性能では バ−ストから少なくとも数時間経過しないと地上へ情報が伝わってきません でした。実際、地上での観測が開始されるころには 既に残光が暗くなっていることが多く、 早期の詳細な観測ができないまま、ガンマ線バーストの正体を想像するしかあり ませんでした。

2003年3月29日:歴史に残る「近傍」で「明るい」 ガンマ線バースト

日本・アメリカ・ヨ−ロッパの研究機関が合同で製作 した観測衛星「HETE-2」は世界で最初のガンマ線バ−スト専用衛星 です2000年10月に打ち上げられた HETE-2は地上からの調整作業を経て、2002年にはバ−スト検出から数十秒で 地上に情報を伝達するという高い性能を見せ始めて いましたそして2003年3月29日、 日本時間20時37分14秒にそのガンマ線バーストは「HETE-2」によって 検出されたのです。ガンマ線バーストは便宜上、その発生した日によって 識別され、このバーストは「GRB030329」と呼ばれます。

京都大学チーム は爆発中の天体等を毎晩 屋上の30cm望遠鏡で観測しています。 3月29日土曜日はよく晴れた日で、京大屋上では夕方からスーパーアウトバースト中 の矮新星かに座AK」 を観測していました。3月29日21時50分、 観測者の携帯電話に届いたメールには ガンマ線バーストが発生した位置が記されていました。 ガンマ線バーストの早期の観測は1分1秒を争います。それまでの「かに座AK」 の観測を即座に打ち切り、メールに記された座標に急いで望遠鏡を向けました。 望遠鏡が止まり、 新しい星の配列が見えてくると すぐに既存のカタログとの 照合はできました。しかし、同時に、カタログには存在 しない、非常に明るい新しい天体が見えていることに気づきました。とにかく 観測を開始したのが21時53分。

それまでにも京大チームは過去にいくつかのガンマ 線バースト残光の検出に成功してきました。しかし、 口径30cmの小型望遠鏡では検出限界ぎりぎりの ものが多く、観測後に画像処理をして解析しないと残光が見えてこないのが 普通でした。3月29日に見たその残光は、 しかしながら、「ビカッ!!」と輝いている姿がモニタ上で容易に確認 でき(このページの上図、もしくはこちらを参照)、 簡単な測定でも急速に減光していくのが分かりました。やがて「GCN」に 国内外の観測者から非常に明るい新天体が現れていることが報告され、 京大チームもそれが急速に減光しているガンマ線バースト残光であることを 報告しました。その後NASAがこのガンマ線バ−ストに関するプレス・リリ−ス (http://www.gsfc.nasa.gov/news-release/releases/2003/h03-126.htm)を行うなど、 この3月29日のガンマ線バ−ストは一昼夜で世界中の研究者に知れ渡ることに なったのです。その後の海外での観測によって、 このガンマ線バーストは地球から約20億光年という、 これまで観測されたガンマ線バーストの中では最も我々に近い場所で発生した ことが分かりました。

我々が捕えた、激しく変動する残光

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GRB030329 の光度曲線。横軸はバーストからの時間(対数スケール、単位:日)、 縦軸は等級。黒丸が我々の観測。左図:時間と共に減光してゆく残光。 右図:平均減光成分からの差。激しい変動が繰りかえし起こっているのが分かる (もっと詳しく)。

GRB030329の発生が伝えられた時に夜8時だった日本は、早期の観測を行うのに 絶好の位置にありました。バーストが出現した方 向はしし座の方向で、この位置も日本での観測に 有利でした。これらの好条件に恵まれ、我々は早期の 残光の挙動をこれまでで最も精密に最も長期間連続で観測することに成功したの です。これまで観測された暗いガンマ線バースト 残光では、データ間隔がまばらで、連続した時間変化の様子は明らかでは ありませんでした。しかし、我々が観測したGRB030329では、バースト76分後から 観測を開始し、南アフリカの観測者と国際共同観測を行うことによって、 連続11時間の減光していく様子を詳細に 記録できました。

観測結果は上の図に示してあります。このような天体の明るさの変動を示した図を 一般に「光度曲線」と言います。ガンマ線バースト残光の場合、 縦軸を等級(エネルギーの対数)、横軸をバーストからの時間(対数スケール)で 光度曲線を描くと、おおむね直線で減光していくことは 以前から分かっていました。これはバーストの産みの親である 「火の玉 (fire ball)」から相対論的な速度で噴出した ジェットが、星間ガスと衝突しながらその膨脹速度 をしだいにおとしていく描像で自然に理解されます。GRB030329もおおむね 直線を描いて減光するのが上の左図からわかりますが、一方で、我々の連続観測 によってその直線成分からは外れた変動成分が存在することが明確になりました。 右図はこの変動成分を分かりやすくするため、直線成分を差し引いた光度曲線 です。バースト発生直後から、変動現象が繰りかえし 起こっているのが分かります。これまでの研究からは、残光がこれほど激しく 変動するとは予想できなかったことでした。

変動を起こす原因はいくつか考えられますが、これほど長期間にわたって激しい 変動を生み出すにはジェットの衝撃波面のエネルギー が時間変化する必要があると考えられます。我々の観測はそのエネルギーの 時間変化の研究を可能にし、ガンマ線バーストの新描像に迫る画期的な成果 となることは間違いありません。早期に密度の高い 観測を行うことで未知の領域がまた一つ明らかになり、今後ガンマ線バースト の研究はこれまで以上に残光の即時観測が重要なものになります。


著者一覧

植村誠(京都大学理学研究科宇宙物理学教室:博士課程3年: 日本学術振興会特別研究員)、
加藤太一(京都大学理学研究科宇宙物理学教室:助手)、
石岡涼子(京都大学理学研究科宇宙物理学教室:博士課程2年:日本学術振興会特別研究員)、
山岡均(九州大学理学研究院:助手)、
Berto Monard (南アフリカ Bronberg Observatory)、
野上大作(京都大学飛騨観測所:助手)、
前原裕之(日本変光星観測者連盟)、
高橋進(ダイニックアストロパーク天究館)、
杉江淳(ダイニックアストロパーク天究館)

Structures in the early optical afterglow of the gamma-ray burst of 29 March 2003
Nature 6月19日号に掲載 [Abstract] [Full Article] [Highlights: Gamma-ray bursts: Stellar collapse]

VSOLJ(日本変光星観測者連盟)ニュース
VSOLJ/VSNET MLs: GRBの過去の日本語記事

GRBの日本語ページ

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