GRB 030329: Nature誌2003年6月19日掲載論文に関するページ
2002年10月4日に起きたガンマ線バースト
GRB 021004: 初めて明らかにされた早期残光
2003年3月29日に起きたガンマ線バースト
GRB 030329: 京都大学で撮られた初期画像を公開
(GRB 030329 の初期画像.
ガンマ線バーストから76分後 = ほとんど世界最初の画像, 4時間後,
1日後で,急激に暗くなってゆくことがわかります)
さまざまな観測事実から,現在では「典型的なガンマ線バースト」 (ガンマ線領域のエネルギー放射が大きく,継続時間が比較的長いもの) は,宇宙の遠方(典型的には100億光年ぐらいの距離,すなわち宇宙年齢が まだ数十億年以下という,非常に若い時期の宇宙)で起きる現象と考えられ ています.
このような距離の遠さと,観測されるガンマ線の放射量を組み合わせると, もしガンマ線バーストがすべての方向に均一に光を放っているとすると (等方的放射 isotropic radiation といいます), そのエネルギー量は莫大なもので,星1個の質量をまるまる (よく知られたアインシュタインの相対性理論による 質量とエネルギーの関係) エネルギーに変換した(そのようなことは知られている物理過程では 不可能ですが)ものに匹敵する場合もあります.
現在では,ガンマ線バーストからの放射は,おそらく等方的ではなく, ジェットのような絞られたビーム状に放射になっていると考えられて います.しかもそのビームの速度が極めて光速に近いため,そこから 放射される光は進行方向にのみ極度に強められます(特殊相対性理論 の効果の一つで,相対論的ビーミング relativistic beaming と いいます).
すなわち,そのビームが我々(地球)の方向を向いている時のみに ガンマ線バーストとして観測されるのではないか,と考えられて います.
以下は,1998年,京都大学大学院 (宇宙物理学) の大学院入試で出題されたものです. ガンマ線バーストからの放射がジェットのような絞られたビーム状に なっていると,なぜ観測事実を説明するのに都合がよいのか, 問題を解きながら考えてみてください.
どのような天体現象がこのような光速に近いジェットを形成することが 可能なのかは,まだよくわかっていません.近年有力と考えられている 説として,大質量星の中心部で重力崩壊(たとえば超新星爆発)が 起きた時に,中心部に形成されるブラックホール周囲で起きる現象, あるいは(最近はやや有力でなくなりつつありますが)中性子星どうしの 連星系が合体する(中性子星どうしの短い周期の連星系は,一般相対性 理論の予言する重力波放出 gravitational radiation を行って,公転 周期は次第に短くなり,いつかは合体します)時に発生する などの可能性が考えられています.
GRBの速報を受ける方法ですが、いくつかの方法があります。まずは、下の (1) をおすすめします。
vsnet-grb vsnet-grb-info等を購読すればOKです。これらのメーリングリストには、 (3) の GCN alert, GCN circulars が転送されますので、(3)と同じ内容を受 信できます。いったん転送という過程を経るので、メールの到着が 1-2分間遅くなるのではないかと心配されるかも知れませんが、 経験的には(3)より早く到着することが多いです。
現在活躍中の HETE-2 衛星や、INTEGRAL 衛星からの速報を受信することが可 能です。
これも(3)から転送されているものと思います。
http://lheawww.gsfc.nasa.gov/docs/gamcosray/legr/bacodine/gcn_main.html
からたどって購読します。
GCN alert, GCN circulars の2種類があり、前者は人工衛星からの位置情報が 自動で送られるリスト、後者はおもに追観測結果が送られるリストです。 (1), (2)に対して特にメリットが無いように思います。
(3)と同様に GCN のURLから登録できますが、固定のIPアドレスと、多少のプ ログラミングが必要です。
鳥居研一
(vsnet-j 189, 2000 Nov. 8)
GRB alert messages
HETE-2 も打ち上げに成功し、眼視観測(!?)の可能性、はともかくとしても、など いろいろと期待されていたGRBの速報が即時に入る時期をまもなく迎えるように なります。これまでVSOLJ MLsでは GRB情報のうち、特にBeppoSAXによって捉えら れたものなどを vsolj-alert で通報してきましたが、HETE-2 によって格段に早 い時期に通報が行われるようになると思われますので、これまでのように人手で vsolj-alert に送信するのをやめ、VSOLJ MLs へのGRB速報は vsnet-grb に一本 化することにしました。vsolj-alert の購読者は vsnet-grb への登録をさせて いただきましたが、もしご不要の方がありましたら vsnet-adm@kusastro.kyoto-u.ac.jp に
UNSUBSCRIBE vsnet-grb e-mail address
とお送りいただければと思います。vsnet-j のみを購読しておられる方は登録し ておりませんので、vsnet-grb を購読しておられずに、今後必要とされる方は 同様に vsnet-adm@kusastro.kyoto-u.ac.jp に
SUBSCRIBE vsnet-grb e-mail address
とお送りください。なお vsnet-grb で通報されるGRBは、基本的に HETE-2から の情報に厳選されるため、件数はそれほど多くはならないと思われます。
観測方法の実際 (日本語:観測を考えておられる方はぜひお読みください)
GRB 030329(日本語)
GRB 030329(英語)
GRB 021004(日本語)
GRB 021004(英語)
Uemura, Makoto; Kato, Taichi; Ishioka, Ryoko; Yamaoka, Hitoshi
Discovery of a short plateau phase in the early evolution of a gamma-ray
burst afterglow
PASJ(日本天文学会誌)出版中
[VSNET
preprint]
[PDF]
Nature letter (T. Kato and H. Yamaoka が共著)
GRB 010222 (英語, 京都大学における日本国内初の残光検出)
GRB 990123(英語)
GRB 980326
(抜粋)
γ線バーストは多量のγ線を爆発的に放射するトランジェント現象で、どこ
でどのように発生するか、発見から30年を経た現在でも解明されていません。
現在有力な説は、z>0.1の遠方で発生していると考えるものです。
97年にBeppoSAX衛星が検出/位置決定したγ線バーストから減光する対応天
体(gamma-ray burst afterglow)が発見され、世間を騒がせました。97/2/28,
97/5/8, 97/12/14に起きたバーストでは、可視光領域でも 『時間のべき関数
的(∝t^-1.1)に減光する』afterglowが検出され、騒ぎは今なお続いておりま
す。とくに 5/8のものでは、Keckによってz=0.835の金属の吸収線が見出され、
この現象がきわめて遠方で生起していることが示唆されます。
γ線バーストの位置を正確に決定するには、可視光によるafterglow検出が もっとも有効な手段です。バーストはどこで起きているのか? ホストとなる銀 河は存在するのか? これらを知る上で早期の可視光追観測がきわめて重要です。 過去の観測から、afterglowは可視光領域で、V〜20程度まで明るくなるようで す。ただし、すべてのバーストで検出されるとは限りません。97年8月28日に 起きたバーストでは上限R>23.8で、0.2等以上変動する天体は発見されません でした。(吉田篤正)
GRB 980425 = SN 1998bw?
(抜粋)
ガンマ線バーストGRB 980425の光学対応天体候補について、IAUC
6895,
6896に
かなりの分量の情報があります。非常に興味深い天体なんですが、いかんせん
南天なので、日本から見ることができません(SN 1987Aみたいだ)。
[SN 1998bw]
撮像やスペクトル観測がESOのグループによって行なわれています。
http://sc6.sc.eso.org/~ohainaut/SN
で見られます。スペクトルを見ると爆発天体ではあるようなのですが、通常の
どのタイプの超新星のものとも似ていません。爆発後少なくとも8日は経って
いるので(最初にこの位置に可視光で見える天体が確認されたのは4月28.4日、
最も最近スペクトルを撮ったのは5月6.4日)、普通の超新星ならどのタイプで
も観測例がある時期ではあります。
この天体がGRB 980425の光学対応天体なのかどうか、また重なって見える銀河 ESO 184-G82の中の天体なのかどうか、さらにこの天体の正体は一体何なのか、 さまざまな謎があり、非常に興味深いものです。(山岡均)
GRB 990123の可視光閃光 (VSOLJ news 011)
1999年1月23日、明るいガンマ線バーストが複数のガンマ線天文衛星によっ てとらえられました。即座に可視光対応天体の観測が行なわれ、ガンマ線を放 出している最中に、可視天体が検出されました。その明るさは、なんと9等級 という、小さな望遠鏡でも簡単に見られるほどのものでした。それに引き続い て、多くの観測や議論が熱く続けられています。バースト発生から2週間ほど になりますが、これまでの情報をまとめておきたいと思います。
今回のバーストは、日本時間で1999年1月23日午後6時46分56秒に起きたもの で、発生日を使ってGRB 990123 と名付けられています。バーストは、開始後25 秒ほどで強度最大になり、いったん暗くなった後に開始後40秒にはまた明るく なるという「ダブルピーク」を示し、100秒近くまで続きました。その間に受 かったガンマ線の総量は、これまでのガンマ線バーストの中でも最大級でした。
GRB 990123の発生も、同様に全世界に伝えられ、即座に可視光や電波での観 測が開始しました。位置はうしかい座の北の部分にあたり、1月の北半球では 夜半過ぎに観測しやすくなります。世界中で最も対応が速かったのは、ROTSE-I と名付けられたカメラです。アメリカのニューメキシコ州に置かれたこの装置 は、焦点距離200mmのカメラレンズにCCDカメラをつけたもの4台で構成されて おり、位置情報を受け取ってすぐに自動で望遠鏡を向け、目標天体の撮影を始 めます。このシステムならば視野も広く、位置情報の不確かさも克服できます。 今回の場合、バーストの発生から22秒後に天体の撮影に入りました。
その結果、バーストの2時間ほど前に同じ方向を撮影していた画像には写っ ていなかった新しい光点が、最初の露出(バースト発生から22秒 -- 27秒)では 12等、次の露出(バースト開始から47秒 -- 52秒)では9等級の明るさで現われ ているのがとらえられたのです。最初の露出は、ガンマ線ではちょうど1回目 のピークに重なるように、次の露出は2回目のピークよりも後ですがまだガン マ線を放出している間になされました。ガンマ線バースト天体が、ガンマ線を 出すのと同時に可視光も出しているところが、初めてとらえられたわけです。 それも、小望遠鏡で簡単に見ることができるほど明るかったとは、誰も予想し ていないことでした。
光点はそのあとは急激に暗くなり、バーストから10分後にはすでに14等以下 に減光していました。さらに、バーストから4時間後にパロマー山天文台で撮 られた画像では18.7等、8時間半後に北京天文台で撮られた画像では19.2等ほ どと、非常に速く暗くなっていきました。その減光のようすは、これまでにと らえられたいくつかのガンマ線バーストの残光と同様、時間の対数と等級がグ ラフ上で直線になる(power-law decay)ような変化でした。超新星のような、 放射性元素がエネルギー源となるもので起きる指数関数的な変化(exponential decay: 時間と等級のグラフが直線になる)とは異なっていたのです。
ガンマ線バーストの距離は、可視光対応天体や母銀河を分光観測し、吸収線 や輝線の赤方偏移を測ることで推定されます。今回のGRB 990123の場合、対応 天体の吸収線がハワイの口径10mのKeck-II望遠鏡などで観測され、赤方偏移の 量zが1.60、距離90億光年ほどと推定されました。観測可能な宇宙の大きさの 半分以上の距離になります。
この距離と、9等級という明るさを組み合わせると、もしこの天体が私たち の銀河系内1kpc(3260光年)の距離にあったら、最も明るいときには太陽と同じ 明るさで見えたことになります。恒星の現象として最も明るい、超新星爆発の 極大と比べても、100万倍以上明るいものです。おとめ座銀河団の距離(超新星 だと最高でも12等くらい)では、金星より明るい-5等くらいになったでしょう。
母銀河とされる天体は、以前の画像にははっきりとは写っておらず、今回の さまざまな観測でもまだその正体がわかっていません。光点の西側10秒角ほど のところにz=0.28の手前の銀河があることはほぼ確定的ですが、z=0.21ほどに 相当するスペクトル線を報告した天文台と、そんな線は見られないという天文 台とがあり、手前の銀河がもうひとつあるかどうか議論が続いています。母銀 河それ自体も見えないとする観測が多く、確認が急がれます。今週早々にはハッ ブル望遠鏡も予定を変更してこの天体を観測することになっており、新しい成 果が報じられるのも間もなくのことでしょう。
まず、今回のバーストが強い重力レンズによって明るくなった像だとすると、 その光路は曲がったものとなります。したがって、今回のバーストより前に、 光路がよりまっすぐな像が着いていなければなりません。これまでにとらえら れたガンマ線バーストのカタログを調査して、方向や明るさの変化が似たもの を探しましたが、対応するものはなさそうでした。
また、バーストがダブルピーク状だったのは、わずかな時間差で到達した2 つの像をみたためだ、とも考えられました。その場合、2つのピークは同じ形 をしていないといけませんが、見たところそうではないようです。
さまざまな議論から、重力レンズが起きていたというのは可能性が低く、光 が特定の方向に絞り込まれていたという効果のために明るかった、とする説が 有力になってきています。しかし、重力レンズによって遅れた像が、今後地球 に届くという望みも捨て切られてはいません。モニター観測を続けるのには意 味があると考えられます。
発見から2週間が過ぎたGRB 990123ですが、今後の観測でその正体が明らか になるにつれ、ガンマ線バースト一般についても理解が深まることが予想され ます。これからもしばらく、この天体に関する情報には目が離せません。 (山岡均)
(VSOLJ news 041)
Lick天文台の自動撮像望遠鏡KAITのチームは、5月3.2日(世界時)に撮影した 画像から、17.4等の新天体を発見しました。位置は、赤経10時52分41.40秒、 赤緯+36度40分08.5秒(2000年分点)で、NGC 3432の中心核から123秒東、180秒 北にあたります。この付近は、おそらく相互作用のために乱された銀河の腕が 濃くなった領域で、新天体はH II領域に重なっているように見えます。ところ が、翌日の確認観測で、この天体は18.2等まで暗くなっていました。これほど 早く暗くなる超新星は例がありません。発見グループは、この天体を超新星で はないと考えて報告しました。
この発見を受けて、山岡(九州大)は、過去に撮影され電子化されたこの銀河 の画像を調べました。すると、1998年5月にパロマー山天文台のシュミット望 遠鏡で撮影した画像に、この新天体とほぼ同じ位置に19.5等ほどの暗い点状の 天体が写っていることに気付きました。それ以前に撮影された画像では、19.5 等は限界等級に近いのですが、この点状の天体は写っていませんでした。普通 の超新星は2年間も明るく見えたりはしませんから、やはり超新星らしくあり ません。
それと相前後して、Wagner(オハイオ州立大)たちはこの天体のスペクトルを 撮影しました。その結果は驚くべきものでした。線の中央がNGC 3432銀河の後 退速度と一致する偏移をした、2000km/sほどの幅を持つ水素の輝線が観測され たのです。とすると、NGC 3432の内部にある、爆発天体です。彼らは、このス ペクトルは古典的な新星のものに良く似ていると述べています。しかし、距離 から考えると、この天体の発見時の絶対等級は-12等となり、最も明るい新星 の10倍以上になります。
一方、Hudec(チェコ)たちは、発見者たちと協力してこの天体の明るさの変 化を調べ、等級の下がり方が時間のlogに比例していると報告しています。9日 にはすでに21等近くまで暗くなっていたそうです。超新星の場合、一般に等級 は時間に対してほぼ直線的に下がります。このように時間のlogに比例した下 がり方をする天体に、最近注目されているガンマ線バーストの残光があります。 彼らは、この天体は、ガンマ線は地球方向に向いていなかったが残光だけが見 えたものではないかとの解釈を与えています。
これらの情報から、超新星観測の専門家であるFilippenko(カリフォルニア 大)は、この天体が、暗いIIn型超新星ではないか、と述べています。このため、 この天体には2000ch という超新星名が付けられました。VSOLJニュース (016)で 紹介した超新星1999bwや、昨年12月に富山県の青木さんが発見された 超新星1999eu もこの暗いIIn型超新星の例です。このタイプの超新星は、 LBV (Luminous Blue Variable)と呼ばれる非常に重い星が、表面を吹き飛ばす現象 ではないか、とも言われています。もしそうだとすると、このタイプの代表例 である超新星1961Vが、最増光の数か月以上前から明るい状態であったことも あり、2年前の画像でとらえられていたこともあり得ます。今後、すばる望遠 鏡などでこの天体が暗くなった後が観測されれば、この奇妙な天体の正体につ いてより詳しく知ることができると期待されます。(山岡均)
[11] [16] GRB 000926 京都大学大宇陀観測所の観測報告 (英語)
[12]
[13]
[14]
GRB 000926, Nyrola Observatoryの観測 (英語)
この GRB は、アマチュアがはじめて検出に成功した記念すべき GRB です
(Sky and Telescope誌などにも掲載されました)。
VSNET-GRB がこの検出を成功に導きました。現在世界で行われている
アマチュアの GRB 観測は、この成功がきっかけとなったと言っても
過言でありません。
[27] [30] GRB 001025A 京都大学大宇陀観測所の観測報告 (英語)
[29] GRB 001025B 京都大学大宇陀観測所の観測報告 (英語)
[45]
[46]
GRB 010119, Nyrola Observatoryの観測 (英語)
方向は上が北でないのでちょっと比べにくいかも知れませんが、発表されている 他の画像と比較していただけると存在がよくわかるかと思います。バーストの等級 は、PSF測光の結果では19.3等という値が出ています。
#もうちょっときれいに処理された画像(下)が 天文学会で 見られるのではないかと期待 (^^;
近年、超新星の世界を賑わしているひとつに、極超新星(hypernova)と呼ば れる現象があります。特に、波長がごく短い電磁波であるガンマ線が数十秒間 強く放たれるガンマ線バーストと同方向に、極超新星が発見された例があり (SN 1998bwとGRB 980425)、ガンマ線バーストの一機構として注目されていま す。(山岡均)
英文vsnetでは紹介させていただいていたんですが、昨年末にスペインのグルー プに「10周年記念誌を出すから、hypernovaについて何か書いてよ」と頼まれ て、今年1月24日に短い文を書きました。そしたらこの騒ぎ(^^;)。
日本語に直して紹介したいと思っていた(けど時間がなかった)ら、ボランティ アで、岡山大学の松本桂さんが和訳してくれました。感謝。
山岡均 (九州大学)
超新星探しには常に,超新星以外の天体を発見する可能性が秘められています. 例えば,Lick天文台超新星探査により発見された彗星 C/1998 Y2 および C/1999 E1 や,銀河系内の激変星 (激変星 KL Draは当初 SN 1998diと報告 されました) 等が挙げられるでしょう.Hypernova は,しかしながら,そのよ うな異なる種類の天体ではなく,あくまで超新星の一種,つまり星の一生の最 期に起こる星全体の破壊なのです.
最も象徴的な hypernova の例は SN 1998bw です.この天体は,1998年4月25 日に起きたガンマ線バーストの可視対応天体を捜索していた ESOチームによっ て発見されました.この天体のスペクトルには広い吸収線が見られ,これは非 常に速く膨張,言い換えれば爆発していることを示唆していました.その膨張 速度は 30000 km/s,つまり光速の 10% にも達していました.
しかしながら,そのスペクトルの特徴は,これまで知られていたどの超新星の ものとも似ていませんでした.水素の線が見えないことから,I型超新星にま ず分類されます.またケイ素の線 (Ia型超新星に典型的) やヘリウムの線 (Ib 型超新星に典型的) も見られません.そのような超新星は Ic型超新星に分類 されます.しかし SN 1998bw は,M51に出現した SN 1994I のような典型的な Ic型超新星との類似性も見られませんでした.そういうわけで,この「超新星」 は,現在では「特異なIc型超新星」と分類されています.膨張速度や光度曲線 から,その爆発は4月21日から27日の間に起こったと推定されています.この ことは,この超新星と,4月25日に起きたガンマ線バーストとの関連を支持す るものです.
SN 1998bw の他の驚くべき特徴は,超新星の中でも最も明るい部類である Ia 型超新星をさらに上回るその光度です.通常,超新星の爆発後のエネルギー源 は,爆発中に形成される放射性元素 (主に 56Ni) の崩壊によるものです.と いうことは,他の超新星と比較して,SN 1998bw にはこのような放射性元素が より多く存在していると考えられます.光度曲線はゆっくりとした減光を示し ますが,これは超新星として広がっていく物質(ejecta)が多かったことを示唆 しています.
これらを基礎に置いて,「hypernova」モデルが構築されています (岩本 他, 1998年, Nature).誕生時に太陽の40倍以上の質量を持っているような非常に 重い星が,水素の外層とヘリウム層を失いながら進化し,最終的に星のコアが 重力的に崩壊します.この崩壊により供給されるエネルギーが,通常の重力崩 壊の30倍だった場合,典型的な重力崩壊型超新星に比べ10倍以上の,また典型 的なIa型超新星に比べてもやや多い放射性元素が生成されます.またこのエネ ルギーは,hypernova の非常に大きい膨張速度も同時に説明することができま す.このような星の中心には,重力崩壊の末にブラックホールが残されるだろ うと考えられていますが,この重力崩壊の途上で「ガンマ線バースト」が生じ ていたのかもしれません.
そのような「hypernova」を,過去に発見された超新星から探す試みが為され ました.その結果,スペクトルと光度曲線の類似性から,現在では SN 1997ef も (対応するガンマ線バーストは検出されませんでしたが) hypernova である と考えられています.この超新星 SN 1997ef は,日本のアマチュア天文家の 佐野康男氏 によって発見されました.次の hypernova の発見者はあなたかも しれません! あなたの超新星の探索と観測が,超新星の未知の側面を解明する ことになるかもしれないのです.
とある掲示板で聞かれて、自信がなかったので知恵を貸してください。
極超新星の読み方って、「ごくちょうしんせい」でいいのでしょうか? また、エネルギーは、どのくらい? クエーサーなどと比べて、どちらがエネルギーが大きいのでしょう? #銀河核と同じ位の明るさになるやつもあるから、可視光に限れば、 とんとんなのかなとか思いますが、自信無しです。
宇宙で一番大きなエネルギーの大きな現象って何でしょう?
山岡@九大理 です。
>極超新星の読み方って、「ごくちょうしんせい」でいいのでしょうか?
「きょくちょうしんせい」です。
#内輪で決めました(^^;)。
>また、エネルギーは、どのくらい?
ええと、どのエネルギーでしょうか? 爆発的に膨張しているガスの運動(力学 的)エネルギーでしたら、数〜十数 × 10^51 ergくらいです。通常の超新星で は、この運動エネルギーが1×10^51 erg程度で、それよりも格段に大きいのが 「極超新星」の定義です。
>クエーサーなどと比べて、どちらがエネルギーが大きいのでしょう? >#銀河核と同じ位の明るさになるやつもあるから、可視光に限れば、とんと >んなのかなとか思いますが、自信無しです。とすると光度かな。極超新星の光度は、通常の重力崩壊型超新星くらいのもの から、核爆発型(Ia型)超新星を越えるほどにまで広く分布します。絶対等級で 言うと-17〜-20くらい。-21と言う人もいる。
クエーサーだと、そうだな一声、絶対等級で-23等とか。もっと明るいものも あります。
>宇宙で一番大きなエネルギーの大きな現象って何でしょう?
ビッグバンでしょう……と言おうとしたら、
>ビッグバンのエネルギーってどれぐらいなんでしょう? 10^xx erg とか書 >けるのかな?書けるわけないじゃん(体積が不明だから)。こういう時は、単位体積あたりの エネルギーを言うか、もしくは温度で表わしますよね。で、プランク時間のこ ろの温度が……調べてください、誰か(^^;)。
意外に知られていないことかも知れませんが、時間に対してべき乗で 減光する天体現象は、他にも存在します。その最も顕著な例は 新星でしょう。
このような、時間に対してべき乗で減光する新天体は早期の通報と確認 が何よりも大事です。言いかえれば、新星の迅速な通報の必要性は ガンマ線バーストの迅速な通報の重要性と何ら変わることはありません。 新星の迅速な通報の必要性がガンマ線バーストほど広く認識されて いないことは残念なことです。
このあたりの事情につきましては、 変光星観測の新展開 もご覧ください。このため、VSNETでは新星等の発見報告に対して、 発見報告の取り扱い(英文) の方針を採用しています。
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