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[vsnet-j 2660] Historical document: T CrB



Historical document: T CrB

 その昔、某所で紹介した文書ですが、今となっては新しい人はほとんど読めない
 ようなところに行ってしまっていると思われますので、文書が見つかったところ
 でその都度紹介していきたいと思います。内容は古いものも多いので、その点は
 考慮して読んでください。一部当時関係した人名が出てくるところもありますが、
 ご了承ください。

(1992/07/16)

T CrB

 激変星から一気に長周期連星に話が飛びつつありますが,T CrBというと,
1866年,1946年に爆発した,全天でも最も明るい反復新星(recurrent nova)として
有名で,R CrBのついでに観測するという人も多いようです(ついでながら,
最初に発見された反復新星はこの天体でなくT Pyxだったと思う).
 この星は,スペクトルの特徴からFG Serのところに書いてあるような,共
生星として理解されることが多いのですが,[共生星]のアウトバーストの例にも
れず,その機構がよくわかっていませんでした.
 よく言われているのが,共生星の反復新星には,2種類ある.という考え方.こ
れはWebbink et al.(1987)あたりが詳細にまとめていますが,Kenyon(1988)の名著
"The Symbiotic Stars"にも紹介されたことから有名になっています.

 その2種とは,

(1)熱核反応の暴走型 (Thermonuclear-runaway; TNR)
 要するに,普通の新星と同じという考えです.
 Webbink et al.は,この型に属するものとして,U Sco, T Pyx を挙げており,
 その後発見された V394 CrA, Nova LMC 1990-2 も同じタイプと考えられていま
す.
(2)赤色巨星からの急激な質量移動による (Accretion event)
 これは共生星のアウトバーストでも考えられている機構ですが,赤色巨星である
 伴星が不安定で,時々爆発的に質量放出を行い,それが主星に降着することで明
 るく輝くというメカニズムである.
 Webbink et al.の挙げている星は,RS Oph, T CrB そしてその後に発見された
 V745 Sco, V3890 Sgr も同じタイプという考えがあります.

 ある特定の反復新星がこのどちらに属するかということは,そう簡単に決定する
ことはできませんが,分光連星としてなど,高温星の質量が測定できて,それがチ
ャンドラセカールの限界(1.4太陽質量)を越えているならば,白色矮星ではあり
えないため,(1)の機構は否定されます.T CrBの場合がまさしくそうで,
Kraft(1958), Paczynski(1965) の測定した[高温星の質量]>1.6太陽質量という観
測値からこの星は(2)に属するらしいという推論がかなり信じられてきました.
それを受けて,爆発的な質量移動が起きやすいのは,伴星が近星点を通過する時で
あるという推論から,近星点付近での観測が試みられ,実際に紫外領域での小フレ
アが観測されたという経緯もあります.ただしこれが通常の新星爆発と関係がある
か否かはよくわかっていません.

 しかしながら,Selvelli et al.(1992)によれば,この推論はどうも正しくなさそ
うだ,ということのようです.その理由としては,
1)爆発時のスペクトルの変化は通常の「非常に速い新星」に類似している.
2)通常の新星の場合は,減光速度と最大絶対等級の間に関係が存在するが,この星
 もその関係に乗っている.
3)爆発の際のエネルギー放出量は,Eddington限界を越えている.これはTNR型
 現象に特徴的である.

 ということのようです.またこの新星は極大後4か月で第2極大を迎え(1.5等ほ
ど明るくなった)たという特徴があり,(1)の機構の場合は,降着円盤が膨張し
て伴星に衝突した時に再度明るくなるという,やや不自然と思われる解釈がなされ
ています.TNRのモデルによれば極大後形成されたnova shellが,中心星からの
紫外光を可視光に変換して再放出したものだ,という解釈となります.1946年の時
に紫外・赤外観測ができていればよかったのですが.同様の現象は他の新星でも起
きるかも知れませんね.なおT CrBもO-Ne-Mg novaという考えもあります.
 もう一方の例である,RS Ophについても,紫外観測の結果から最近は高温星は白
色矮星という説が有力で,新星爆発の理論計算と観測もよく一致するのだそうです.
この調子では,反復新星は基本的には通常の新星現象で,白色矮星の質量が十分大
きく,伴星からの質量移動率も高いため,短い間隔で新星爆発を繰り返すことがで
きるものだ,という方向に落ち着きそうです(高い質量移動率を実現するために,
伴星が進化の進んだ赤色巨星という条件が効いているのだと思う)

 T CrBの高温星の質量を決定した観測は古い時代のものなので,現代の優れ
た観測手段での確認が望まれるところです.また新星爆発は近星点の近傍に起こり
やすいという考えも根拠が怪しくなってきたようです.要するにあまりヤマを賭け
ずにいつでも観測をしなさいということでした.

参考文献
  Kenyon,S.J., 1988, "The Symbiotic Stars" (Cambridge Univ. Press)
  Kraft,R.P, 1958, Ap.J. 127,625
  Paczynski,B, 1965, Acta Astronomica, 15,197
  Selevelli,P.L, Cassatella,A., and Gilmozzi, 1992, Ap.J. 393,289
  Webbink,R.F., Livio,M, Truran,J.W, and Orio,M, 1987, Ap.J. 314,653


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