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V651 Mon



V651 Mon      SD+E PN        11.29-15.28v
「変光星」1990.03
 ところで、V651 Mon (NGC2346の中心星)の食現象はどのように解釈されたので
しょうか? IBVSなどで光度曲線を見たことは何度かあるのですが、不勉強のため
か、変光の機構について読んだ覚えがないのですが? ちょうどこの雑誌にsummary
が掲載されていますので紹介しておきましょう。もし以前の記事と重複していまし
たらお許し下さい。

・NGC2346の中心星の食の観測とそのモデル (Costero et al., Rev.Mexicana Astron.
Astrof. 13,149,1986)

 NGC2346は双極形をした惑星状星雲で、最近になって多くの観測がなされた。1982年
以前にわかっていたことは次のようである。

a) Kohoutek and Senkbeil(1973) による中心星の測光値はV=11.12,B-V=+0.20であ
り、1899年から1981年の終わりまでは一定光度を保っていた。Mendez(1978) による
Stromgren測光、スペクトル観測の結果、中心星はA5V型であり、吸収はAv=0.2と見
積られた。

b) 星雲自身の測光からは大きな吸収Av=0.8-1.5が得られた。
c) A5V型の星からの輻射ではNGC2346の高励起状態を説明できないので、Te=10^5K
という高温の見えない伴星があることが推測された。
d) Mendez and Niemela(1981) による中分解能のスペクトル観測により、中心星が
単線分光連星であることが確認された。周期は15.991日、離心率0.07、f(M)=0.0073
太陽質量、a1sin(i)=3.6x10^6kmの要素が得られた。
e) 星雲の距離は460-1700pcと推測された。
f) 赤外過剰が認められ、1200K_ストが存在することがわかった。

 さらに1981年以降の観測から以下のことが明かとなった。

a) Kohoutek(1982) は連星の公転周期にほぼ一致する大きな変光を発見した。
b) Mendezら(1982) の観測によれば、周期的な光度変化はダストの雲による食であ
ることが明かとなった。さらに極小光度において、正の視線速度過剰が見られた。
しかし、食の間もスペクトルがA5であることは変わりなかった。食は次第に深く長
くなり、ダストの雲が中心の連星系を次第に隠しつつある状態と推定された。視線
速度過剰は雲の大きな密度勾配を通して見るA型星の自転の効果と推定された。
c) 変光曲線は次第に変化し、これまでの極小の位相にわずかな盛り上がりが見ら
れるようになり、副極大となった。
d) ダストの雲は双極星雲の形成に関与したと思われるdiskまたはtoroidの断片で
はないかという説が出された。
e) IUE衛星による観測では、短波長域では高温の準矮星が支配的で、紫外線強度、
CIV,HeII輝線の強度の極大は可視光の極小に一致することが示された。軌道上A型星
と準矮星は反対の位置を占めているのだからこれは当然である。

 近赤外の測光によれば波長が長くなるにつれて食は浅くなり、2ミクロン以上で
は周期的な変動は認められない。しかし食の起こる前と比べてみると2.2ミクロン
で全位相で0.4等の減光が認められる。中心の連星の周囲を太陽半径の数百倍の大
きさで取り巻く1000瀚程度のダストからの輻射が2-10ミクロンでは支配的で、中心
星からずっと離れた低温(50-100瀚)の雲がその前を横切ることによって食が起こっ
ていると考えられた。

 つまり、地球から見ると15.991日周期で公転運動をしているA型星(可視光では
準矮星の光はほとんど寄与しない)の前をゆっくり通り過ぎるダストの雲を想像し
ていただくとよい(図を書くと分かりやすい)。雲がA型星の見かけの軌道に初め
てかかる時は、軌道上A型星が雲の中心に最も近いところでのみ食が見られる。こ
れが初期の幅の狭い食である。雲が見かけ上中心星の方向に進むにつれ、より濃い
部分が軌道にかかるようになり、食は深く長くなる。そして雲の大きさがA型星の
見かけの軌道と大差なければ、最初に食の始まった軌道上の点はいずれ最も濃い部
分を抜ける。これが副極大の出現である。A型星の軌道の中心が雲の最も濃い部分
を通過する時、A型星が雲の中心を横切る軌道上の2点で光度の極小が見られる。

 それを過ぎると今度は逆に最初極小光度が見られた軌道上の点が雲の中心から最
も遠くなり、初期の状態と極小極大の位相が逆転するはずである。これは実際に観
測で確認された。そして、逆の経過を経て食は見られなくなった。

 Shaefer(1985)は別のモデルを提案している。彼は食を起こす雲は準矮星から放
出されたのではないかと言っている。しかし、そのような雲がよほど多数ない限り、
この場合は食が起こると赤外光度は逆に増光するはずであるが、実際はそうはなら
なかった。さらに準矮星からの逃脱速度はかなり大きいという難点がある。

 連星系の前を通りすぎるダストの雲のモデルについて計算が行われ、楕円体の雲
のサイズとして2-5x10^12cm、総質量10^-13太陽質量が得られた。連星に対する見
かけの相対速度は0.5km/sである。これが連星のまわりを軌道運動しているとして、
ケプラーの法則から求めた軌道の大きさは0.05pcとなり、この大きさは双極星雲の
くびれの部分の大きさに相当する。IRASのデータから求められたダストの総量は
2.5x10^-4太陽質量なので、そのごく一部分が食を起こしたことがわかる。このよ
うな雲は多数あると思われるが、近い将来同様の現象が見られる可能性は小さいで
あろう。また雲の質量は微惑星に相当するものだが、食の形態からみてこの雲は自
己収縮を起こしているようである。NGC2346は高度に進化した星の周囲で微惑星が
形成される過程の見られる初めてのケースと思われる。