GRB021004 −2002年10月4日に起きたガンマ線バースト− の
「光度一定期間」の発見
[English]
京都大学チ−ムは宇宙最大級の爆発現象
「ガンマ線バースト」
の早期の残光観測に成功し、これまで誰も見たことの無かったバースト後1時
間付近の挙動を初めて明らかにしました。
現代天文学に残された大きな謎「ガンマ線バースト」
ガンマ線バーストとは宇宙最大規模の爆発現象で、
その正体は発見から30年たった現在でも謎のままです。
X線よりも波長の短い「ガンマ線」と呼ばれる電磁波領域において、
0.1秒から数百秒の間明るく輝く謎の現象が最初に報告されたのは1973年の
ことで、それは核実検監視衛星による偶然の発見でした。この現象は
ガンマ線バースト(Gamma-Ray Burst; GRB)と呼ばれ、その後の研究で
1日に1回程度の頻度で検出される、宇宙の中で決して
珍しくない、ありふれた現象であることがわかっています。発見から
約20年の間はこの現象が太陽系内で起こっているのか、銀河系の中の現象なのか、
その発生源すらも特定できない情況でした。
しかし、1990年代になり、ガンマ線以外の波長域(X線、可視光、電波等)でも
ガンマ線バーストに付随した爆発現象(「残光」と呼ばれる)が報告され、特に
可視光の観測から、ガンマ線バーストは実は系外銀河、
場合によっては「宇宙の深層部」で起こっていたことが明らかになった
のです。そのような遠方での現象であるにも関らず地球から明るく見えることは、
爆発のエネルギーが非常に大きいことを意味します。ガンマ線バーストの爆発
エネルギーは超新星をも越えると言われており、一体
何が起こってそのような巨大なエネルギーが解放されたのか? ガンマ線バース
トとその残光現象の正体は何か? 等の基本的な謎は未だに解明されていません。
謎の解明を妨げるもの、それは現象の短さと突発性
発見から30年が経過して、その間多くの研究者が熱心に議論してきたにもかか
わらず、まだその正体が解明されていないという情況は、
現代天文学では珍しいことです。
なにが研究のスムーズな進展を妨げてきたのでしょうか?
最も大きな原因は、このガンマ線バーストが予測できない突発現象で、しかも
爆発の持続期間が極めて短いことです。上にも述べたように、ガンマ線
バーストそのものの持続時間はまさに「一瞬」(0.1-100秒)で、その一瞬を観測
衛星が捕らえ、情報を地上に送り、地上の観測者による残光観測の
開始に至ります。
さらに、残光現象もバースト同様、持続時間が短く(通常1-2日しか観測
できない)、一カ所の観測所による観測では現象の全体像を把握することは
不可能です。従って、ガンマ線バ−ストの研究には
観測衛星による迅速な情報伝達と、複数の観測所による多経度での観測、
すなわち大規模な国際共同観測が必要不可欠なのです。
これらのうち後者を可能にするのは電子メールや web を利用した情報の
即時共有化です。現在では、ガンマ線バ−ストが発生したことを伝えるメ−ルは
アメリカ・NASAの「GCN
(The GRB Coordinates Network)」によって配布され、我々が運営する
「VSNET
(Variable Star Network)」が提供するサ−ビス
(vsnet-grb,
vsnet-grb-info,
vsnet-j-grb)
を通しても購読できます(*1)。このような地上の即時観測に備えた
ネットワ−クシステムが確立していく一方で、これまで
の観測衛星の性能ではバ−ストから少なくとも数時間経過しないと地上へ情報が
伝わってきませんでした。実際、地上の残光の観測では急速に減光して
いく姿しか捕らえられておらず、減光の速さやその時間変化のみが我々に
与えられた「ヒント」でした。特にバ−スト直後から
1時間の間の早期残光については情報がほとんど無く、次世代のガンマ線
観測衛星の活躍に期待が集まっていました。
(*1) VSNET は GCN情報の2次配信のノードとなっています。電子メール受信
機能のある携帯電話でも受信可能です。配信ご希望の方は、購読希望
リスト名を添えて
vsnet-adm@kusastro.kyoto-u.ac.jp までご連絡ください。
HETE衛星、INTEGRAL衛星からのガンマ線バ−スト即時通報は
vsnet-grb、GCNサーキュラーおよびVSNETが配信する情報は
vsnet-grb-infoに配布されます。
新ガンマ線バ−スト専用観測衛星「HETE-2」の登場、
そして2002年10月4日
日本・アメリカ・ヨ−ロッパの研究機関が合同で
作成した観測衛星「HETE-2」は世界で最初のガンマ線バ−スト専用衛星
です。2000年10月に打ち上げられたHETE-2は地上からの調整作業を経て、
2002年にはバ−スト検出から数分で地上に情報を伝達するという高い性能を見せ
始めていました。そして2002年10月4日。日本時間
21時7分2秒に発信されたメ−ルには、なんと21時6分13.57秒に起こったガンマ線
バ−ストの位置情報が記載されていました。バ−ストのわずか約48秒後
に位置情報が報告されたこのガンマ線バ−ストは、しかも日本で観測するのに
絶好の位置に発生しており、京都大学チ−ムをはじめ、国内の多くの望遠鏡が
その観測のために動き始めました。翌日にはNASAがこのガンマ線バ−ストに
関する
プレス・リリ−ス
を行うなど、この10月4日のガンマ線バ−ストは一昼夜で世界中の研究者に知れ
渡ることになったのです。
京都大学チ−ムはこれまで観測が不可能だったバ−スト
直後から1時間の光度変化を捕らえることに成功しました。これまで急速
な減光しか観測されていなかった、ガンマ線バ−ストの残光。誰も見たことが
無かったこの早い時期には、しかしながら、残光は急速な減光をしていません
でした。我々の早期残光の観測は、バ−スト後30分から
2時間30分頃までは残光の光度はほぼ一定であることを世界で初めて明らかに
しました。他の観測所でのデ−タと合わせると、この残光はまず
最初30分程減光し、その後2時間程度の光度一定期間を経てから、他の多くの
残光で観測されてきたような急速な減光に入ったことがわかります。
初めて明らかになった早期残光の光度変化。それは一体何を意味するの
でしょうか。
(京都大学宇宙物理学教室屋上で観測に成功した GRB021004)
我々の解釈はこうです。このガンマ線バ−スト以前から残光の光度変化の説明を
試みる多くの理論モデルが提唱されていました。その中の1つ「火の玉モデル」
によると、バ−スト数時間後の挙動は巨大な
エネルギ−の塊である「火の玉」からほとんど光速に近い速度でジェット状に
爆発的に放射されたプラズマと周囲のガスとの衝突によって生じる光
(シンクロトロン光)で良く説明されます。
理論的にはこの光はバ−スト後約2時間程度で極大を迎えることが
予言されていますが、これまでそのような早期の光度変化は観測されて
いませんでした。我々は光度一定期間はこのモデルが
予言する残光の極大付近を捕らえたもので、火の玉モデルの新たな観測的証拠
であると考えています。実際上の図中に点線で示したように、
このモデルが予言する光度変化は我々の観測に良く一致します。この場合、
最初の減光はジェット内部での衝撃波からの光で説明が可能です。
今後も早期の観測に成功し、残光が常にバ−スト後2時間程度で極大を迎える
ことが確認されれば、我々の解釈は支持されるでしょう。そうすると
火の玉モデルが予言するように、より早期の観測から
ガンマ線バ−ストの初期状態に迫れる可能性があります。
我々の観測はガンマ線バ−スト残光の早期観測の重要性
を改めて確認する結果となりました
。可視光観測は、
残光の発見をはじめ、これまでガンマ線バーストの研究にいくつかの重要な
知見を与え、新たな扉を開いてきました。今回の我々の観測も、残光の極大時間
を初めて観測から決定し、それによってガンマ線バーストの研究はまた1つ
新たなフェーズを迎えることになります。
Uemura, Makoto; Kato, Taichi; Ishioka,
Ryoko; Yamaoka, Hitoshi
Discovery of a short plateau phase in the early evolution of a gamma-ray
burst afterglow
PASJ(日本天文学会誌)出版中
[VSNET
preprint]
[PDF]
GRB021004に関するページへのリンク
Nature letter (T. Kato and H. Yamaoka が共著)
MIT (マサチュセッツ
工科大学)のページ
NASA
プレスリリース
理化学研究所(RIKEN) HETE-2 ページ
HETE-2 page (MIT)
LANL
(ロスアラモス研究所) HETE-2 のページ
VSOLJ/VSNET MLs:
GRBの過去の日本語記事
GRBの日本語ページ
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