2002年M110新星の光度変化
○山岡 均(九大理)、加藤 太一(京大理)、綾仁一哉(美星天文台)
Introduction:
系外銀河の新星は、我々の銀河内の新星と比べて星間吸収の影響が少ないため、 ひとつの銀河内での新星の頻度や分布の研究に好適である (Della Valle and Livio ,1994; Shafter, 1997; Shafter and Irby, 2001)。 また、新星の減光速度と極大光度の間には良く知られた相関(明るいものは減光 が速い; MMRD)があり、おとめ座銀河団程度の距離までは新星を用いた距離測定 が有望である(eg. Ferrarese et al., 1996)。
新星は明るいとは言っても極大絶対等級は−6 〜 −9等級程度で、近傍銀河に おける系統的サーベイ(Capaccioli et al., (1989)他)を除いては、系外銀河での 新星発見は散発的であった。しかし近年、超新星探索の副産物として、系外銀河 での新星発見が報告されてきている。
発見:
2002年10月5.56日(世界時、以下同様)に、山形県の板垣公一氏は Messier 110 = NGC 205 に新星らしき天体を発見した。この天体は16.4等で発見されてからの1時 間に0.3等も明るくなり、山梨県の串田麗樹氏が5.764日に確認観測した時点では 15.8等と報告された(IAUC 7984)。銀河系外の新星を日本人が発見したのは初めて のことである。
追跡観測:
この報を受けて9.6日に美星天文台で分光観測を試みたが、スリットビューワ上に 認められなかった。このことから、この時点で天体はすでに17等以下になっていた ことがわかる。もちろん、分光は不可能であった。
VSNETに投稿された観測でも、8日には18等前後となっており、この天体はたいへん 急速に減光したことが判明した。Web上などに公開された画像から測定した光度を まとめて図1に示す。光度変化から、極大から2等級減光するのにかかる時間t_2は 2日以内と推測される。
Della Valle and Livio (1995)が導いた新星のt_2と極大絶対等級の間の関係
M_V = - 7.92 - 0.81 arctan ( 1.32-log(t_2) / 0.23 )
(3σ〜0.5等)を適応すると、この天体が新星であればM_Vは -9.0 〜 -9.2で あったと計算される。M110のm-Mは24.6等ほど(Lee, 1996)であるから 極大のm_vは15.5等程度となり、串田の観測が極大前と考えると報告と充分 良い一致を見せる。これから、この天体は真にM110に出現した新星と 考えられる。
premaximum halt:
アンドロメダ銀河は天体画像の好対象であるため、新星の発見前に偶然撮影され た画像に、この新星が写っているとの報告が複数あった。このうち、板垣氏の発 見前日の10月4.630日に奈良県の増谷幸成氏が撮影した画像に新星が写っており、 光度は17.0等であった(Yamaoka et al., 2002)。また、発見当日の5.5日前後に兵 庫県の山田哲司氏が撮影した画像では、20分ほどの間に0.3等級ほども明るくなっ ていくところが捉えられている。これらも合わせて図1に示す。
急増源光した新星で極大1日前にこれほど明るいpremaximum haltが見られるのは 珍しい。観測史上もっとも増減光が速い新星のひとつである V1500 Cygでは明瞭な premaximum haltは観測されていない。一方、やはり急速新星であった CP Pupでは、 極大2日前に極大より1等暗い光度でとらえられており、その翌日に急速増光した ことが知られている(Pattit, 1943)。V1500 CygがFe型、CP PupがNe型の新星であっ たことから、今回の新星も、比較的まれなNe型新星であった可能性がある。
Capaccioli et al., AJ, 97, 1622 (1989) Della Valle and Livio, A&A, 286, 786 (1994) Della Valle and Livio, ApJ, 452, 704 (1995) Ferrarese et al., ApJ, 468, L95 (1996) Nakano et al., IAUC 7984 (2002) Lee, AJ, 112, 1438 (1996) Pettit, PASP, 55, 14 (1943) Shafter, ApJ, 487, 226 (1997) Shafter and Irby, ApJ, 563, 749 (2001) Yamaoka et al., IAUC 8001 (2002)
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