山岡@九大理 です。 英文vsnetでは紹介させていただいていたんですが、昨年末にスペインのグルー プに「10周年記念誌を出すから、hypernovaについて何か書いてよ」と頼まれ て、今年1月24日に短い文を書きました。そしたらこの騒ぎ(^^;)。 日本語に直して紹介したいと思っていた(けど時間がなかった)ら、ボランティ アで、岡山大学の松本桂さんが和訳してくれました。感謝。 さあ、次は銀河系内の超新星の文章でも書くかな(^^)。 九州大学(六本松地区)理学部物理学教室 山岡 均 〒810-8560 福岡市中央区六本松4-2-1 yamaoka@rc.kyushu-u.ac.jp ---- Hypernova: 通常の超新星を上回るエネルギッシュな爆発 山岡均 (九州大学) 超新星探しには常に,超新星以外の天体を発見する可能性が秘められています. 例えば,Lick天文台超新星探査により発見された彗星 C/1998 Y2 および C/1999 E1 や,銀河系内の激変星 (激変星 KL Dra は当初 SN 1998di と報告 されました) 等が挙げられるでしょう.Hypernova は,しかしながら,そのよ うな異なる種類の天体ではなく,あくまで超新星の一種,つまり星の一生の最 期に起こる星全体の破壊なのです. 最も象徴的な hypernova の例は SN 1998bw です.この天体は,1998年4月25 日に起きたガンマ線バーストの可視対応天体を捜索していた ESOチームによっ て発見されました.この天体のスペクトルには広い吸収線が見られ,これは非 常に速く膨張,言い換えれば爆発していることを示唆していました.その膨張 速度は 30000 km/s,つまり光速の 10% にも達していました. しかしながら,そのスペクトルの特徴は,これまで知られていたどの超新星の ものとも似ていませんでした.水素の線が見えないことから,I型超新星にま ず分類されます.またケイ素の線 (Ia型超新星に典型的) やヘリウムの線 (Ib 型超新星に典型的) も見られません.そのような超新星は Ic型超新星に分類 されます.しかし SN 1998bw は,M51に出現した SN 1994I のような典型的な Ic型超新星との類似性も見られませんでした.そういうわけで,この「超新星」 は,現在では「特異なIc型超新星」と分類されています.膨張速度や光度曲線 から,その爆発は4月21日から27日の間に起こったと推定されています.この ことは,この超新星と,4月25日に起きたガンマ線バーストとの関連を支持す るものです. SN 1998bw の他の驚くべき特徴は,超新星の中でも最も明るい部類である Ia 型超新星をさらに上回るその光度です.通常,超新星の爆発後のエネルギー源 は,爆発中に形成される放射性元素 (主に 56Ni) の崩壊によるものです.と いうことは,他の超新星と比較して,SN 1998bw にはこのような放射性元素が より多く存在していると考えられます.光度曲線はゆっくりとした減光を示し ますが,これは超新星として広がっていく物質(ejecta)が多かったことを示唆 しています. これらを基礎に置いて,「hypernova」モデルが構築されています (岩本 他, 1998年, Nature).誕生時に太陽の40倍以上の質量を持っているような非常に 重い星が,水素の外層とヘリウム層を失いながら進化し,最終的に星のコアが 重力的に崩壊します.この崩壊により供給されるエネルギーが,通常の重力崩 壊の30倍だった場合,典型的な重力崩壊型超新星に比べ10倍以上の,また典型 的なIa型超新星に比べてもやや多い放射性元素が生成されます.またこのエネ ルギーは,hypernova の非常に大きい膨張速度も同時に説明することができま す.このような星の中心には,重力崩壊の末にブラックホールが残されるだろ うと考えられていますが,この重力崩壊の途上で「ガンマ線バースト」が生じ ていたのかもしれません. そのような「hypernova」を,過去に発見された超新星から探す試みが為され ました.その結果,スペクトルと光度曲線の類似性から,現在では SN 1997ef も (対応するガンマ線バーストは検出されませんでしたが) hypernova である と考えられています.この超新星 SN 1997ef は,日本のアマチュア天文家の 佐野康男氏によって発見されました.次の hypernova の発見者はあなたかも しれません! あなたの超新星の探索と観測が,超新星の未知の側面を解明する ことになるかもしれないのです. ---