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[vsnet-j 1469] Kyoto survey images



吉田誠一です。

京都大学チームのサーベイ画像を、3月29日の分まで検査しておりましたが、3
月31日の分以降がストップしていました。

実は、3月31日のサーベイ画像については、従来のPIXYシステム2ではほとんど
検査が成功しない、という問題が発生していました。何と、4443枚中4398枚が
検査に失敗して、成功したのはわずかに45枚だけでした。

調べてみると、京都大学チームの画像は星の数が極端に少ないために、マッチ
ングの成否の判定で失敗していることが分かりました。PIXYシステム2は、画
像から検出した星と、カタログデータとの間でマッチングをして、写像関数を
求めた後、それが正しいかどうかを、マッチングで星どうしがペアになる割合
から判定しています。そのスコアが0〜1の間で算出されるのですが、スコアが
0.2未満の場合は失敗と判定するようにしていました。

この閾値は経験的な値ですが、これまでの画像は少なくとも50個程度、多い場
合は1万個以上の恒星が写っている画像ばかりでした。ところが、京都大学チー
ムの画像では星が10個未満というケースも非常に多く、そのように恒星が少な
い場合には、スコアが0.05〜0.2程度になってしまうようです。そのため、マッ
チングに成功していながら、スコアの判定で失敗となっていました。

ところで、京都大学チームの場合、固定撮影であるため、どれか1枚の画像で
検査に成功すれば、時間差から、すべての画像のだいたい正確な中心の赤経、
赤緯が求められます。画角と回転角は、当然すべて一致します。ということは、
すべての画像について、いちいちマッチングを行う必要は無い訳です。

そこで、PIXYシステム2に、マッチング処理を端折る機能を追加し、最初はふ
つう通りに検査して、成功した1枚から全画像の中心の座標を求め直してから、
今度はマッチングをスキップして検査する、という2段階の手順を踏むことに
しました。

# 結果として、マッチング処理のスコアが、恒星数が少ない時にうまく機能
   しない問題は、先送りになりました (^^;

ところで、マッチングを端折る場合は、予めかなり正確な中心の赤経赤緯、画
角、回転角を指定しなければなりません。もし間違った値を設定した場合は、
検査は正しく行われません。ただ、これまでは初期値が正しくない場合はマッ
チングで処理が中止され、その後のペアリングには進まないようになっていま
した。今回の機能は、無理矢理ペアリングに進んでしまうことになります。こ
れは従来は想定していなかった処理です。やってみると、間違った値を設定し
た場合には、異常に大量のノイズを含む結果XMLが生成される等、いろいろと
問題が発生することが分かりました。

更に、恒星数が少ないための問題というのも、多く発生しました。

・極限等級(何等星まで検出するか)が実際よりもかなり暗く設定されてしま
  う。結果として多くのノイズが混じってしまう。

・上限等級(検出されない星は何等星以下と言えるか)が実際よりもかなり暗
  く設定されてしまう。結果として、写っていない変光星のnot seenな光度デー
  タが正しくなくなる。

・例えば画像の右半分だけに多くの星がある、というように、星が偏在してい
  る場合に、写像関数が星のない部分でずれてしまい、ペアリングがうまくい
  かなくなる。結果として、写っている星の光度が写っていないと記録されて
  しまう。

・間違ったペアリングをした場合、ペアにならない星が非常に多くなってそう
  と分かるが、それでも結果のXMLファイルが生成されてしまっていた。

・ほぼ同じ位置にある検出星像とカタログデータが、ペアにならず、別々の星
  と記録されてしまうことがある。星の偏在が原因の場合だけでなく、画角が
  狭い場合には固有運動が大きい星や、明るすぎて位置が精度良く求められな
  い場合もある。結果として、これらの星が新星候補となってしまい、新星捜
  索でDSSをチェックする手間が増える。京都大学チームの画像のように、恒
  星数が少ない場合は、固有運動の大きい星が混じると写像関数が決まらなく
  なり、検査自体が失敗する場合もある。

今回、ペアリング、極限等級設定といった、マッチング後の処理を改良して、
これらの問題をすべてクリアしました。

ところで、京都大学チームの画像は固定撮影なので、星像が伸びています。し
かし、PIXYシステム2は星像を2つに過剰に分離してしまうことが良くありま
した。結果として、測定光度がおかしくなってしまいます。ちょっと試してみ
たところでは、3x3の平滑化フィルターをかけてから処理すると、うまくいく
ようです。そこで、今後は、3x3の平滑化フィルターをかけてから検査するこ
ととします。

これらの改良をした結果、別メールで報告しました通り、約半分の44%の画像
で検査に成功するようになりました。お受け取りした画像の中には、雲のため
か星がまったく写っていないものも多くあります。また、方針として、恒星数
が3個以下の場合は無条件に失敗としています。それらのことを考えると、だ
いたい成功しているように思えますが、枚数が多いので、厳密には確認してい
ません。

既に検査済みの3月29日までの画像も、新しいシステムで検査すれば、もっと
多くの画像で検査に成功するはずです。実際、他の方の画像でこれまでに検査
に失敗していたものを10枚ほど選んで試してみると、すべてうまく検査できて
しまいました。

今後、PIXYシステム2でのカタログサポートが一段落した時点で、全結果XMLに
ついてカタログとの同定を行い、データベースを1から作り直す、という時期
が来ます。その時に、これまでの京都大学チームの画像をすべて検査し直す予
定です。

今回の改修をしたPIXYシステム2の最新版をリリースしました。バージョンは
2001 August 13 となります。

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吉田 誠一 / Seiichi Yoshida
comet@aerith.net
http://vsnet.aerith.net/index-j.html