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[vsnet-j 2725] History: SN 1993J



History: SN 1993J

 学会のポスター断片ですな。ふーん、って感じのところもありますが(^^;)
 史料として。

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超新星SN1993Jの光度曲線

 加藤睦彦、加藤太一(京都大・理)、山岡均(九州大・教養)
 日本変光星観測者連盟

 M81に出現した超新星1993Jは、近代天文観測史上北天では最輝のもの
であり、超新星としては爆発後非常に初期に発見・確認が行われたため、初期の
急激な変動を詳細に記録することができた。ここでは日本国内での観測をはじめ、
全世界より寄せられた可視域を中心とした初期光度変化を提示する。整約に使用
したデータはIAUCに公表されたもの、ネットワークなどを介して収集された
公開データで、光電(CCD)測光、眼視観測、写真測光を含めた総観測点数は
発見以来5月5日までで1600点を越えている。

 光度曲線の特徴

 (1)progenitorはV=20-21の星と同定され(Perelmuter,IAUC 5736他)、II型
超新星が実際に赤色超巨星の爆発によって生じることを示す初めての貴重な例と
なった。progenitorの光度は銀河のバックグラウンドの影響などで測定者により
値はやや異なるが、U=21.7, B=21.4, V=20.6, R=19.9, I=19.4が平均的な値で、
非常にlate typeの星ではなく、爆発後に推定された標準的な星間吸収を仮定すれ
ばK型程度のAGB星に対応する色と光度である。また現在までに得られている
1982-1993年の測光値からは観測誤差以上の光度変化は認められず、爆発前に長周
期変光星やHubble-Sandage variableであった可能性はほぼ否定される。

 (2)発見は1993年3月28.906日UT、スペインのF. Garciaによって眼視的になさ
れ、光度はmv=11.8であった(IAUC 5731他)。その後発見前の写真やCCD画像が
見いだされ27.91UTには16.0等よりも暗く、28.30UTには13.7等であったことが判明
している(IAUC 5740他)。光球面に衝撃波が到達して急激な温度・光度の上昇が
起こったのはこの間であると考えられる。

 (3)超新星は発見後も光度を増し、3月30日UTごろ第一極大V=10.7に達した。
これまでに得られている最も初期の光電測光は30.19UT, V=10.70(Richmond)である
が、B等級ではすでに急激な直線的な減光を示しており、真の極大はさらに早かっ
たものと考えられる。これは橋本裕二氏によって29.691UTに偶然撮影されていたカ
ラー写真に10.3等で写っていることからも支持される。

 (4)超新星は第一極大を過ぎた後は紫外から近赤外のすべての波長域で急激な
減光(約0.3等/日)と赤化を示し、3月5.5日UTごろ極小光度に達した(B=12.3,
V=11.9, R=11.4, I=11.2)。U等級のみはやや遅れて7.0日UTごろ極小に達した。
 この期間にB-Vは-0.1から+0.35へと変化し、超新星の光球表面温度が急激に低下
したことを示している。
 SN 1993Jはその後の光度変化などからII-P型(光度曲線後期にplateauと呼ばれ
る平坦部が存在する)である可能性が高いと考えられているが、よく観測された
II-P型超新星でこのような初期急減光を示した例はSN 1988Aが知られるのみであ
る。このような急減光はこのSN 1993Jなどに特有な例外的なものであるか、ある
いは他のII-P型超新星では発見が遅く観測されていないだけであるのかは現在の
ところ不明である。他にもSN 1969Lのように光度上昇からすぐにplateauに達した
例もあり、II-P型超新星の初期光度曲線にはさまざまなvariationが存在すること
がわかる。

 (5)その後超新星は増光に転じ、4月17日UT、第2極大に達した。極小光度か
ら第2極大までの期間はB-Vの赤化傾向は弱まり、この期間に+0.35から+0.55に変
化したに過ぎない。

 (6)第2極大以降は超新星の赤化は速まり、2週間の間にB-Vは+0.55から+1.35
へと急激に赤くなった。U等級ではその傾向がさらに顕著である。一方でR,Iバン
ドでは減光ははるかにゆるゆかであり、報告されている点数は少ないもののJ,H,K
バンドでは一定光度に落ち着く傾向が認められる。

 (7)5月上旬に入ってV等級での減光速度はやや鈍る傾向を示し始めた。12等
前半で真のplateauに到達するのか、あるいはこのまま減光を続けるのか、今後の
観測結果が待たれる。
 もし真の極大が第1極大に対応しており、第2極大がplateauに対応するのであ
れば、典型的なII-P型超新星の100前後の値に比べてSN 1993Jは異例に短いplateau
(40日以内)を示したことになる。
 電波観測の結果や早期からのX線の放出から、この超新星のprogenitorは爆発前に
2 \times 10^{-6}M_\odot yr^{-1}程度の比較的大きな質量放出を行なっていたこ
とが示唆されている。この質量放出によるcircumstellar matterと超新星の衝撃波
およびejectaとの相互作用、小さめのprogenitor envelope massが、早い光度曲線
の進展に関与している可能性がある。

 なお、光度曲線をまとめるにあたり、用いられた比較星が発表されているものに
関しては統一した標準星・光度スケールとなるように個々の観測点に必要な補正が
加えられている。まだ観測施設によってわずかの系統差が認められるが、これは検
出器の分光感度特性の違いによるものと考えられ、今後の補正が待たれるところで
ある。

 この光度曲線の作成にあたって、Internetを初め、商用を含む各種ネットワーク
の果たした役割は大きなものがあった。特に発見直後の情報の配布、共通標準星の
決定、望遠鏡時間の調整、共通データフォーマットの整備などに多くの努力が払わ
れた。このような情報網の整備なくしては初期の急激な変動を捉えることはほとん
ど不可能であっただろう。また1日のうちにも大きな変化を示す超新星などの突発
天体への観測戦略を練るために、即時情報の得られる眼視観測情報が大変貴重であ
り、この成果はVSOLJ(日本変光星観測者連盟)を初めとする観測グループに
おける共通の星図の準備や迅速な情報伝達に負うところが大きい。

 今後「すばる」望遠鏡の重要プロジェクトの一つとなると思われる超新星を用い
た宇宙論的パラメータの決定における観測プロトタイプの確立に、今回の超新星の
果たした役割は大きい。「すばる」望遠鏡ではこの超新星の数十倍遠方の超新星に
対して同等以上に精密な観測が可能であることを指摘して結語としたい。

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