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[vsnet-j 2156] Superoutbursts, superhumps, and the tidal-thermal instability model




 教室内のゼミで発表した論文紹介の概要です。もしかしたらすでに流したおそれも
 ありますが(^^;)、こちらにも流しておきます。

  Superoutbursts, superhumps, and the tidal-thermal instability model
  (Buat-Menard and Hameury, astro-ph/0202474) ほか

1. 背景

 ・基本的にこれらの著者は、矮新星の disk instability model を修正するモデル
  を考えてきている(歴史的な mass-transfer burst model と disk-instability
  model の対立の延長上と考えてもよい?)
  -> disk instability model [ここでは thermal-tidal instability model (TTI)]
   で説明しにくい点などを取り上げる。
  (歴史的には、一般の dwarf nova outburst -> SU UMa-type superoutburst
   -> WZ Sge-type outburst, black hole transient 等へと舞台を変えて
   この議論が続いている。最近では Z Cam stars なども新たな舞台になって
   きている)

 ・ある程度の観測的証拠からも、アウトバースト中に mass-transfer rate が
  増えることは不自然ではないのでその影響はきちんと取り入れる必要がある。

 ・Hameury et al. (2000) A&A 353, 244 で、irradiation + evaporation を考慮
  することで、TTI だけでは説明が難しかった一部の矮新星(特に RZ LMi) が
  うまく再現できる結果が出された(観測的立場からはそれほど似ているように
  は見えないが・・)。
  (ちなみにこの結果は Disk Instability Workshop でも提示されて、結構な
  反響があった)
  -> これに勇気づけられて(?)、各種矮新星を統一的に説明しようと多数の
   論文が出されている。

 ・Hellier (2001) PASP 113, 469 によって、TTI model では全く別の物理的
  機構を仮定して(むりやり? = 一種のパラメータ操作)説明されてきた、
  ER UMa stars と WZ Sge stars の再増光現象を、統一的に説明できるかも
  知れないアイデアが提唱された。

 ・ER UMa stars と WZ Sge stars の再増光現象は、現象的には結構似て見える。
  -> 何か物理的な共通性があるのではないか?

 -> というあたりを背景として、以上の考えを組み合わせて「ER UMa stars と
  WZ Sge stars の再増光現象は TTI model に mass-transfer burst的効果を
  取り入れることで自然に説明できる」という結論を導きたい。

2. Hellier 2001 の概要

(導入)

 ・TTI model (Osaki model) の中では、ER UMa stars は SU UMa stars の中で
  mass-transfer rate の大きな極限として考えられている。しかし、この範囲
  では Ts (supercycle) = 45 d ぐらいまでしか説明できない。
  -> RZ LMi (Ts = 19 d), DI UMa (Ts = 22 d) などは説明困難。Osaki (1995)
  は、RZ LMi において、superoutburst を通常の SU UMa stars よりも早く
  終わらせることでこの周期を再現できた。
  -> 通常の SU UMa stars よりも大きな半径で superoutburst が終了する詳細
  な物理的理由はまだ不明のままだった(tidal torqueが小さい (Osaki 1995);
  tidal instability の成長が遅い (Nogami et al. 1995) などの定性的原因は
  考察されていたが、必ずしも詳細が明らかでなかった)

 ・TTI model の枠内で WZ Sge-type の再増光現象はまだあまり解明されていない
  問題の一つ。Osaki et al. (1997) では、WZ Sge-type superoutburst の後
  で quiescent alpha を人工的に上げることで、mass-transfer rate を変化
  させなくても再増光が再現できることを示した。しかし quiescent alpha
  が上昇する原因はまだ推測の域を出なかった。
  Osaki et al. (2001) では、Gammie and Menou (1998) の提唱した
  MHD turbulence の decay によって、alpha が時間とともに減少する効果で
  説明を試みた。

 -> TTI model の枠内では、この2つの現象は異なった物理に支配されていると
  考える。しかも自由度の高いパラメータを含んでいる。

 -> TTI model の問題点の一つは、superoutburst が終了する点を予言できない
  ことにある。(これまでは r = 0.35a などの点で強制的に終了させるなどの
  手法がとられてきた)

 ・ER UMa stars や再増光現象を示す WZ Sge-type stars は、mass-ratio
  (q = M2/M1) が非常に小さい。そのような特殊な条件で起きることを考える。

 ・Osaki TTI model では、superoutburst は tidal instability によって
  eccentric になった disk からの angular momentum removal によって維持
  されている。
  -> tidal instability が効かなくなったところで thermal instability も
  終了すると考える(一定の r で打ち切る根拠の一つ)

(Hellier 2001 の解釈)

 ・Hellier 2001 では、この逆の過程を考える。すなわち、非常に low q の系
  では、tidal instability の利きが弱いため、tidal instability がまだ
  働いている段階で、disk が cool state に移行すると考える。
  ("decoupling of thermal and tidal instabilities")

  -> このような条件は、ER UMa stars, WZ Sge stars のような極端な q の
   系でのみ実現される -> 観測と合う。

 ・WZ Sge-type 再増光は、cool state に先に移行してしまった後に取り残され
  た mass が 3:1 resonance 等の効果で mass-transfer source として働き、
  disk 内側で再増光を起こす。
  (3:1 resonance付近から mass-transfer が供給され、内側で inside-out
  outburst を起こす? -> WZ Sge 2001 でよい観測があるので検証可能だろう)

 ・ER UMa stars では、起きている現象は WZ Sge-type 再増光と同じと考える。
  ER UMa stars では、もともと mass-transfer rate が大きいので、次の
  superoutburst がすぐ起きる。

(問題点)

 ・定性的考察のみによっている、アイデアを提示した論文。
 ・WZ Sge 2001 outburst の前に書かれたものなので、同じアイデアでより詳細
  に観測された WZ Sge の現象を説明できるか興味深い
 ・q estimates にはかなり怪しいデータも含まれている。たとえば WZ Sge は
  AL Com と同程度らしいことが最近判明しているが、それらの観測結果を取り
  入れると解釈が変わってくるかも?
 ・再増光を起こす系は、low q のものだけでなさそうなことが最近わかってきて
  いる(V725 Aql, 1RXS J2329... )が、考察されていない。

3. Buat-Menard and Hameury (2002)

 ・Hameury et al. (1998) の1次元コードを持っている
  これまでの TTI model の計算では、disk 外縁を固定していた。これを free
  にすると様子が変わってくる。また、eccentric になった disk への tidal
  effect なども1次元の枠内で定式化した。
   (詳しくは MNRAS 298, 1048)

 ・irradiation + evaporation の効果を入れる計算は Hameury et al. (2000)
  で定式化されている。

 -> これらのツールを使って、Hellier 2001 の解釈の検証を数値的に試みる

(tidal torque)

 Ttid = cωrνΣ(r/a)^5 (Papaloizou and Pringle 1977)

 ここで、TTI model に従って c は一定でない値とする(例えば Ichikawa et al.
 1993 では、superoutburst 期間中だけ高い値をとるようにする)。
 c = c0 (円形の時: r < r_crit0 * 0.8)
 c = c1 (eccentric になっている時: r > r_crit0 * 0.9)
 (r_crit0 = 0.35a)
 c1/c0 をパラメータとして残しておく。

(disk circularization)

 tidal instability が効かなくなってから、どのぐらいの time-scale で
 eccentricity が decay するかを評価。

  t = (eccentric orbitであることによるエネルギー過剰)/(散逸の強さ)
 で評価する。エネルギー過剰 は e^2 に比例、散逸の強さ は r^(-3)x粘性
 に比例。t = e^2*(viscous time) となる。e^2 = 0.01-0.1 程度と考えれば
 t = 2x10^5 sec 程度と期待される。

 (-> もしこの考えが正しいのであれば、late superhumps が長く続く系では、
 eccentricity を維持する機構が必要になる)

(結果)

 ・通常の SU UMa-type parameter
  -> TTI model 通りの supercycle を再現
  (c1/c0 は 20-50 程度が観測と合う superoutburst duration を再現)

 ・ER UMa stars の parameter
  -> c1/c0 によって結果が変わる
  c1/c0 = 50 の時には、cooling wave が発生して superoutburst が終わる。
  c1/c0 = 80 の時には、circularization が先に始まって
   superoutburst が終わる。
  -> 現実的な parameter によって decoupling が起きるらしい
  -> Hellier の予言を一部確認

  しかし光度曲線はあまり合っていない(次のアウトバーストまでが長すぎる)
  -> 一つの考えとして、系は常に c1 だけの状態(disk は常に eccentric)
  をとっていると考える。すると outburst は thermal instability のみで
  起きる -> 潮汐効果が常に効いた状態での SS Cyg のような状態が期待される。
  normal outburst と superoutburst は narrow and wide outbursts of SS Cyg
  に対応?
  -> この場合 superhumps は常時存在していると期待され、観測的にもある程度
  支持される(本当?)

 ・WZ Sge-type 再増光
  ER UMa stars と同様の q, tidal torqueで、mass-transfer rate を下げる。
  -> おそらくこれだけでは再現できなかったのであろう、superoutburst前後で
  mass-transfer rate を増やす操作を加える。
  -> なんだか再増光らしい光度曲線を作ることができた。
  (結果的に Hellier のアイデアをあまり検証したことにはなっていない模様?)
  -> 得られた結果の特徴
   ・再増光が main superoutburst よりも明るくなった
   ・mass-transferを増加させたことにより、superoutburst の前後で disk
    半径が最小になっている
    (-> WZ Sge eclipse timing と比較することで検証できそう)
   ・mass-transfer rate の増加で始まったのではない(Ishioka et al.
    2002) という観測結果については、「mass-transfer rateの増加はそれほど
    大きなものが要求されないので、観測とは矛盾しない」とのこと。

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