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[vsnet-j 2003] On early superhumps



On early superhumps

 そういえば、学会予稿をいつも通りこのリストでも紹介しておくのをすっかり
 忘れていました ^^;

#他の皆さんもぜひどうぞ。

WZ Sge型矮新星の``early superhumps"の解釈
○加藤 太一(京大・理)

矮新星の中で、10年から数十年という非常に長い間隔で巨大なアウトバースト
を起こすWZ Sge型矮新星と呼ばれる系がある。これらの天体はスーパーハンプ
現象を示すSU UMa型矮新星の一種であるが、アウトバーストの初期に軌道周期
に非常に近い周期のふたこぶの周期変動(early superhumps)が共通してみられる
点が、他のSU UMa型矮新星との際立った差異である。この現象の起源は謎であっ
たが、代表星WZ Sgeの2001年増光に際して行われた同時測光・分光によって
観測的知見が飛躍的に増した。
この結果、early superhumpsの出現時期にHeII輝線などの速度場で2本腕の
パターンが発見され(2001年秋季年会PDL)、early superhumpsの起源との関連が
示唆されていた。しかしながらこれらの特徴を統一的に説明するアイデアは
知られていなかった。

一方、既知の矮新星の中で速度場に同様の2本腕のパターンが観測されている系
がある。この現象はこれまで渦状衝撃波を反映していると解釈されてきたが、
Smak (2001)および Ogilvie (2001)は、必ずしも衝撃波が存在しなくても、
伴星の潮汐力場中の降着円盤の速度場の歪みによっても説明できるという新解釈
を提唱した。
本講演では、WZ Sge型矮新星のearly superhumpsの観測的レビューを行うとともに、
WZ Sgeのような極端な質量比を持つ連星についての Ogilvie (2001)の計算に
基づく降着円盤の速度場の歪みを考慮することで、WZ Sge型矮新星の
early superhumpsの測光・分光観測上の特徴が統一的に解釈可能であることを
提案する。

---

 このアイデアをもとにした論文は PASJ の次の号に出版されます。

 それはともかく、このアイデアに至ったゼミの記録がありましたので、せっかく
 ですので紹介しておきます(その後発表された論文についてまだ含まれていない
 ので内容的には若干古くなっていますが)。このゼミで発表した翌日?だったか、
 Ogilvie (2001)の論文が astro-ph に出て、それらに基づいてPASJ論文をまとめ
 た、という経緯があります。

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論文紹介

  On the Interpretation of Doppler Tomograms of Dwarf Nova Disks
  During Outburst (J. Smak (2001) Acta Astron. 51, 295)

(背景)
 矮新星のアウトバースト中の輝線の Doppler tomography によって、(速度場)
 でアーチ状の点対称な構造が見出されている
 (IP Peg: Steeghs et al. 1996, etc)

 -> (2D) 流体シミュレーションから予言された tidally induced spiral waves と
 一般に解釈されている(なお、Livio 1994 が検出可能性を予言していた)

 この解釈はかなり広く受け入れられているが、いくつかの問題が提起されていた

 a) 矮新星のoutburst中のdiskは一般に optically thick で、quiescent disk
  に比べて Doppler tomography の仮定(平面、obscuration等がない)が満た
  されにくい。きちんと扱おうと思うと 3D 構造を考え、しかも輻射輸送を考
  える必要あり。

  -> Steeghs and Stehle (1999) が簡単なモデルを導入し、このような条件
  でも spiral wave が Doppler tomography に現れるとした。

 b) disk temparature の問題
  spiral の角度は Mach numberで決まる。温度の低い disk では、この角度が
  小さくなって観測的に非常に検出しにくい。温度を上げると spiral の腕が
  開くようになるが、たとえば Godon et al. (1998) の計算によれば 10^5 K
  ぐらいの温度が必要 -> そんな温度でバルマー線などが出るはずがない。

  -> 何か(simulation,解釈 etc.)に問題がある可能性があるが、問題が明ら
  かでない。

 c) emission line の起源の問題
  SS Cyg などの系でも、"outburst line" と呼ばれる He II 輝線が見える。
  IP Peg などの速度場をみると、He II は disk から出ていると考えるのが
  妥当であろう。これらの line を出すには 25000 K ぐらいが必要。(普通
  の disk モデルでは1/100ぐらいの line しか出ない)。しかし spiral の
  見られる領域は disk の外側(速度が遅い)と思われ、なぜもっと高温の
  内側で見られないのか不思議。(spiralの見られる速度領域が、モデル計算
  より小さすぎる)

 d) Doppler map上の特徴の問題
  spiral は主に2つの arch S(187), S(345) からなるが、多くの系で S(187)
  の方が強い。(位置的には hot spot と反対側)
  -> これも理論的には説明が難しい

 e) モデル計算の問題
  これまでのモデルは 2D 中心で議論をしていた。3D でも同じ構造が出るか?

(新しい解釈)

 近接連星系 disk において、制限3体問題を考える。periodic orbit は tidal
 force によって、外側ほど歪められる。

 これまでの 輝線の Doppler tomography の解釈では、emissivity は密度に対応
 するとしてきた。

 -> ここでは、新しい考えとして、-div(v) を考えてみる。これは密度の時間変化
 に比例するので、-div(v) の大きいところでは圧縮が行われ、マイナスのところ
 では膨張する。圧縮によって温度が上がり、scale height増加 -> 中心星からの
 irradiation を有効に受け、temperature inversion を起こして輝線を出す。

 (tidal forceの弱い内側ではこの効果が小さいことで、内側での He II emission
 が弱いことが説明できるだろう)

 -> この -div(v) を制限3体問題の periodic orbit の速度場で計算し(パラ
 メータは IP Peg)、Doppler tomography を作成してみると、観測そっくりの
 spiral pattern が再現された。

 ・強度比(伴星に近い側がよりtidal forceが働くため)
 ・spiralのみえる速度領域

(結論)
 ということで、tidally induced spiral waves でなくても、シンプルな disk の
 tidal distortion を考えるだけで、観測される Doppler tomography を(より
 詳細な点まで)説明できることがわかった。


発展的問題:WZ Sge では?

 WZ Sge (2001) の superoutburst に際して

 ・He II の disk origin と思われる輝線が強く現れた
 ・Doppler tomography 上で、spiral pattern に酷似したパターンが観測された
 ・ほぼ同じころ、photometric に double wave の "early superhump" が観測
  されている。

 これをこの新しい解釈を用いて解釈できないだろうか?

 ・WZ Sge では Mdot が IP Peg の 1/100 ぐらいと思われ、stream-disk
  interaction はより小さいと思われるので、IP Peg とは違うスキームで説明
  できると好都合
 ・hot spot と反対側が強いことも、大きな mass-transfer burst に否定的
 ・mass ratio がまったく違う
 ・early superhump は WZ Sge-type に特徴的。spiral pattern と同時に説明
  できないか?

 Smak のアイデアを q=0.1 程度のケースに適用:

 過去の計算例 Lin and Papaloizou (1979):

 ・low q binary では、通常の状態では、tidal force が弱いために disk viscosity
  による angular momentum 輸送の方が強い

 ・しかし、2:1 resonance が働く半径になると、この効果が卓越する可能性があり、
  two-armed spiral pattern が生じる

 (導出中に、Smak と同じ div(v) を用いているが、tidal effect の定式化に用
  いられているもので、観測と結び付く量としては陽には出てきていない)

 -> この程度の q でも軌道の向きは定性的に同じよう(ただしここでは流体で考
  えている)が、2:1 resonace が働くと方向が変わるらしい(図では不明?)

 -> いずれにしても、このような q でも、2:1 に近いところまで disk が膨張す
  れば、IP Peg でみられたものと同様の tidal force による pattern が観測
  されても不思議ではない。また WZ Sge-type のように q が小さいと、tidal
  force が小さいので、もっと内側(たとえば 3:1 付近)では、この効果はあ
  まり効かないかも知れない。

 -> WZ Sge-type においては、superoutburst に際して 3:1 resonance の発達が
  遅いため、disk はさらに expand して 2:1 に近いところまで達する可能性が
  ある。そこで tidal force が急に働いて、spiral pattern を作るのではない
  か? IP Pegとの微妙な違いは、あるいは 2:1 resonance による軌道の回転?

 ・観測的には spiral pattern の発生、He II emission の発生、early superhump
  の発生の時期が非常に近い(ほぼ1日以内で一致している)-> 何か関連があり
  そう。

 -> spiral pattern を作っている disk の構造が early superhump を作っている
  ことを強く示唆する。double wave であることもよく合う。
  しかし、photometric maximum と、emission line の強い位相は 0.5ずれている
  ことが問題。

 -> もしかすると、垂直構造に対する irradiation の効果が主に効いているので
  あれば、diskの構造が WD の向こう側にある時に正面から観測することになり、
  位相が 0.5 ずれていることとつじつまが合う?

 ・通常の SU UMa-type では、3:1 に達したところで disk expansion が終わって
  しまうので、強い early superhump が観測されない??
  -> SU UMa-type の earlu superhump の有無をこれまで以上に検証すべき

 ・tidal force の効果が中心で、2:1 resonance が必要条件でないならば、
  q > 0.1 の RZ Leo で WZ Sge的現象が観測されたことも説明できるかも?

 ・(主に non-SU UMa stars で)、spiral pattern の出るような系で、photometric
  に対応する変化が本当にないのか、もっと観測が必要かも知れない。

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