MISAOプロジェクト・アナウンスメイル (2001年6月19日) MISAOプロジェクトの吉田誠一です。 USNO-A2.0は米国海軍天文台で編集された、全天に渡っておよそ20等までの恒 星を含む、巨大な星表です。CD-ROMで11枚というサイズですが、下記のサイト などからダウンロードすることができます。 http://adc.gsfc.nasa.gov/pub/adc/archives/catalogs/1/1252/usnoa/ もちろん、このカタログはPIXYシステム2で表示することができます。米国海 軍天文台のご厚意により、MISAOプロジェクトの活動ではUSNO-A2.0のCD-ROMを 使用させて頂いています。MISAOプロジェクトにご提供頂いた画像は、現在は ほぼすべてがこのカタログとマッチングをして、画像の中心の赤経赤緯や画角 を算出しています。 ところで、USNO-A2.0では暗い星まで光度が記載されているので、CCDで天体を 撮影した時に、天体の光度を、USNO-A2.0に載っている光度と比較して測定す ることがあります。USNO-A2.0には、赤バンドでのR光度と、青バンドでのB光 度が記載されていますが、通常のCCDは赤い光に高い感度がありますから、R光 度と比較して光度を測定していることが多いと思われます。 しかし、USNO-A2.0の光度は誤差が大きく、正確な光度が求められません。場 合によっては、真の光度から2等もずれた、誤った光度が求められてしまうこ ともあるのです。 そうした一例を、MISAOプロジェクトのホームページで紹介致しました。 USNO-A2.0を使った光度測定の問題 http://vsnet.aerith.net/misao/pixy/result/usno-photometry-j.html このページで紹介している画像は、門田健一氏が撮影した、赤経21時、赤緯 +44度付近のものです。ノーフィルターCCD画像と、同じ写野のUSNO-A2.0のR光 度を使って作成した星図を載せています。 一見して、USNO-A2.0では多くの星が欠落していることが分かります。また、 最も明るいいくつかの星の配列は、すぐに画像の星と一致することができます が、その周囲の星を見比べても、なかなか画像と星図との対応を見つけられな いと思います。 このように、夏の天の川の中のいくつかの領域では、USNO-A2.0を使った星図 とCCD画像を比較しても、どの星がどの星に対応するのか、すぐには分からな いことがあります。もちろん、PIXYシステム2は、自動的に星と星の対応を見 つけることができます。 PIXYシステム2を使って、USNO-A2.0のR光度を基に、すべての星の光度を測定 してみました。前述のページでは、その結果と残差の表を紹介しています。結 果は、1ピクセルカウントあたり22.63等となりました。100カウントの星であ れば、明るさは17.63等となります。全体の誤差が1.54等とばらつきが大きく、 USNO-A2.0の光度の精度が良くないことが分かります。 ところが、同じ画像で、PIXYシステム2を使って、こんどはティコ星表の光度 を基にすべての星の光度を測定してみると、USNO-A2.0のR光度を使った場合と 比べて、大きな差が出てしまいました。結果は、1ピクセルカウントあたり 20.67等となりました。100カウントの星であれば、明るさは15.67等となりま す。USNO-A2.0のR光度と比べると、星の測定光度は2等も明るくなってしまい ました。 ティコ星表を使った場合は、標準のV光度、B光度が分かりますので、使ってい るCCDチップに合わせて、 星の光度の測り方 http://vsnet.aerith.net/misao/pixy/tutorial/photometry-j.html に書いてある方法で、正しい光度を測定することができます。 つまり、この領域の場合は、USNO-A2.0のR光度を使って光度を求めると、真の 値よりも2等も暗い測定結果となってしまうことが分かりました。 USNO-A2.0のR光度と、ノーフィルターCCD光度との格差は、いくつかの変光星 でも大きく現れています。 MISAOプロジェクトで発見された新変光星の1つ、MisV1111(赤経 21h00m08s.21、赤緯+44o21'22".3)は、MISAOプロジェクトに提供されたノー フィルターCCD画像では12.4等から14.0等まで変光している、赤色変光星です。 http://vsnet.aerith.net/misao/data/MisV/MisV1111.gif この星はUSNO-A2.0にも記載されています。ところがその光度は、R光度が17.9 等、B光度が20.2等と、MISAOプロジェクトで測定された光度よりも、はるかに 暗くなっています。 この天体の DSS (Digitized Sky Survey) 画像を Astronomical Image On-line Access Interface http://dss.mtk.nao.ac.jp/ から入手してみると、確かにRバンド、Bバンドのプレートでは、とても暗くし か写っていないことが分かります。しかし、Iバンドのプレートでは、この天 体は明るく写っています。おそらく、赤外線でより強く光っている天体だと思 われます。 P.S. 過去のMISAOプロジェクト・アナウンスメイルは http://vsnet.aerith.net/misao/index-j.html で閲覧できます。 -- 吉田 誠一 / Seiichi Yoshida comet@aerith.net http://vsnet.aerith.net/index-j.html