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V518 Per = GRO J0422+32



ペルセウス座X線新星はブラックホール候補か?
                              加藤 太一

 IAUCなどを大学の先生と再検討しました。このように強いX線を出す天体は
(X線の強度と可視光の光度の比をとる)中性子星かブラックホールと考えられる
のですが(爆発前が暗かったことから、low-mass X-ray binary型)、その特徴は
一つにはX線のスペクトルに現れます。IAUCの記述にもあるのですが、今回のX線
源は100keV以上のエネルギー領域のX線が見られます。IAUC 5587によれば600keV
まで輻射が伸びているということです。磁場の弱い中性子星ではこのような高いエ
ネルギーを生成することは難しいとされています(もちろんまだ仮説段階ですが)。
そしてこのX線天体には規則的なパルス成分が観測されず、磁場が弱いことがわか
ります。

 また、ブラックホール型と中性子星型のX線新星の光度曲線の違いとしては、
ブラックホール型はexponential decay(一定の割合で暗くなる)をすることが特
徴とされています。中性子星の場合はあるところで急に暗くなるようです。この
違いは極大から30日ぐらいで現れるので、今後の光度観測がさらに重要となります。

 IAUC 5593にある、400-600keVの過剰輻射もe+/e-の対消滅に関連している可能性
があり、もし511keVの線が検出されれば、このような消滅線を出すことは中性子星
連星では珍しいので、ブラックホールの可能性が強まります。小川村で観測された
1hまたは2hの周期変動については、X線新星についてこれまで発見されたこと
のない周期なので周期の安定性の確認が望まれます。
どちらかが軌道周期とすると、X線連星では(特にブラックホール候補天体)これ
まで知られていない短周期のもの(そのような短い周期のものは存在しないのでは
ないかという理論的予測もある)で、そうでなければ降着円盤上の何らかの現象を
見ている(例えばQPOですが)可能性があります。2hというのは典型的なX線
連星の降着円盤の外縁のケプラー周期に近く、そこで何かが起こっている可能性が
あります。例えばスーパーハンプの出現に必要な円盤上の軌道の共鳴位置が、伴星
の公転周期の1/3(かのOsaki理論です)なので、その位置に共鳴が発生したと
ころと考えることも可能でしょう。この解釈は連星の公転周期が決定された段階で
判明するのではないかと思います。いずれにせよスーパーハンプ周期の決定が期待
されます。

 日変動の様子からは、V404 CygよりはNova Mus 1991(これもブラックホール候
補)に似ているようです。

 これだけの期間の exponential decay (X線での光度曲線で直線的に減光)は
これまでのところブラックホール候補天体のX線新星にのみ見られている特徴で、
この天体がブラックホールを含む可能性がさらに高まりました。1/e になる時間44
日はこれまでに知られている値30-40日よりはやや長めですが、中性子星ならばむ
しろ短くなるらしいです。

 これでこの天体の本体がかなりわかってきましたので、観測計画を立てましょう。
一つは引続き可視光でのスーパーハンプの検出と軌道周期の決定。

 また、この種のX線新星では原因は不明でうすが爆発後50-80日でそれまでの指
数関数的な減光から急に明るくなる現象が観測されています。その時期の可視光で
の挙動はよく知られていません。8/15を極大とすると10月いっぱいがその時期にあ
たります特に観測を密に、また何か異常が見られた場合にはすぐ報告してください。
もしX線での増光が降着円盤外縁での矮新星型の不安定に基づくものであれば、X
線より先に可視光で増光するはずだからです。